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入院日記・番外編(3)/読書とわたくし・藤澤清造の長編小説「根津権現裏」

【2012年7月17日(火)】

 この日から、西村賢太の師たる藤澤清造の長編「根津権現裏」(新潮文庫)を読み始める。

 文庫本の帯には、「幻の小説が、90年の時を経て甦る。」とあるね。
 初版の発行は、大正12年(1922年)4月、著者34歳の作だ。
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 読み始めてすぐにわかったのは、藤澤清造の「没後弟子」を自認し、石川県七尾市にある藤澤清造の墓の隣に、2002年6月に生前墓を立ててしまった西村の文学的な出自(=文体の獲得と<私小説>という表現スタイルの獲得)は「根津権現裏」に由来するということであり、見慣れぬ、聞きなれぬ以下の表現は、みな、この「根津権現裏」に散見されるのである。

 「結句」、「云う」、「すぐと」、「とうどう」「慊い(あきたりない)」、「曩め(はじめ)」、「購め(もとめ)」、「果敢なくなってしまった」、「ほき出した」、「篦棒」、「罵詈讒謗」、「閑所」、「買淫」。

 さらに、「はや」、「どうで」といった出自不明の副詞。
 
 この内のどれかが、藤澤清造の出身地である能登方言に由来するもののようであるとは、何となくわかって来たんだわさ。
 あとは、本人独特のものの謂(い)いか、当時の日本語のスタンダードであるのかも知れないね。

 西村本人のいう「大正時代の澱(おり)」の中の、まさに澱中の澱である藤澤清造の〝文体〟という胎内をくぐり抜けて血肉化された澱こそが、西村賢太の文体であることが、ようやくわかったのだ。

 あれっ!? 金さえあれば毎日「買淫」したいといったのは、師匠の方だっけ、弟子の方だっけ?

 それにしても、「根津権現裏」、どうでもいい小説である。

 いま、59章中、36章までを読み進めて来た時点でいうと、3行で終わる表現を、文庫本のページ数でいうと200ページ近くをかけて延々書き続けられる、藤澤清造という男のその粘着体質というか、駄文に賭ける物書きとしての情動には、ただただ恐れ入るばかりである。
 とはいえ、この小説の初版本の題字は高村光太郎であり、当時、田山花袋が島崎藤村がこの作文を激賞したというのだから、これも恐れ入るのである。

 
 しかし、その作品に惚れ抜き、新潮文庫にいきなり文庫オリジナル版として復刻ランクインさせ、(西村本人いわく、このレーベルの文庫化の売り上げ目標を基準としたハードルはかなり高いのだそうである)、しかも、ボクが手にしている判の時点で、平成23年(2011年)7月1日発行/平成23年(2011年)11月25日三刷にまで売り上げさせたという点では。西村賢太の妄執や恐るべし、といった結果なのだ。

 いずれにしても、藤澤清造の「没後弟子」を自認する西村賢太の〝人生を変えた本〟(西村本人の弁)という動機付けがなければ、とうてい読む気など起きない本なのである。 
 「どの仏を尊しとするかは本人の勝手である。ほっとけ!!」といったようなニュアンスのことを、確か西村はどこかで書いていたような気がするな。

 ま、長い読書人生には、こんな無駄道があってもいいのかも知れないな。

 ああ、それにしても、「根津権現裏」、どうでもいい小説である。
 くどいわ、語り口が。


 死んでしまえ、といった時には、すでに藤澤清造、昭和7年(1932年)1月29日(金)の朝、慢性の性病に由来する精神異常の結果、芝公園の六角堂内で凍死体となって発見されたのである。
 享年44歳。
 南無~。
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by misaochan3x6 | 2012-07-19 06:06 | 入院日記 | Comments(0)

入院日記・番外編(2)/「F♯m」とわたくし

 072.gifTell me/The Rolling Stonesに出て来るコード(和音)は、以下のとおり。

  A B7  C♯m D E E7 F♯m の5つ。

そんでもって、

 072.gifLove is Blue/Paul Mauriat に出て来るコードは、以下のとおり。

 A B7 C♯m D E Em F♯m の5つ。

 5つのコードの内、4つのコードが共通しているのがおもしろい。
 違う表現をすれば、4つのコードの組み合わせというか、コード進行の違いで、曲というのはこうも違うものなのかということなんよ。
 まったくもって、音楽とは奥深い。

 さて、この中で曲者のコードが、人差し指で全弦をカバー(セーハ)して押さえる「F♯m」なんだわさ。

 ギターにチャレンジする善人のほとんどが、このセーハで討ち死にして敗れるのである。
 俗にいう「Fの壁」
 同様に、「B」もセーハしなければ、音が出ない。

 そうなんよ、ギターって、ちゃんと弦が押さえられないと、きれいに音が鳴らない悪魔の楽器なんよ。
 難儀やわ~。
 そんな難儀な悪魔の楽器を愛してしまったわたくしもまた、難儀な男なり。

 というわけで、ずっと避けていたセーハなのだが、「F♯m」が抑えられなければ、この2曲は永遠にモノにならないとなれば、弾けるようにするしかないのである。

 そんでもって、この「F♯m」のフォームのまま、指を右に1フレット移動すると「G♯m」になるのだが、このコードできちんと音が出せると、この曲のイントロとアウトロが弾けるんだわさ。

 072.gifI Faught the Law/The CLASH ver.

  E E B7 A G♯m E
 
 頼むでしか~し。


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by misaochan3x6 | 2012-07-19 05:57 | 入院日記 | Comments(0)

入院日記・番外編(1)/岩田鉄五郎54歳。タメ?!とわたくし

 病棟の憩いルームにある雑誌・マンガ・小説等の置き本コーナーで、「野球狂の詩」第10集を見つけて読む。
 連載は、黄金期の週刊少年マガジン(1972年~1976年)。
 
 当時、妹が通っていたピアノ教室には、毎週、最新の週刊少年マガジンが補充されていて、妹にそれを借りて来させて、むさぼるように読んでいたものである。
 そういうわけなので、幸運にも、「デビルマン」も連載開始から本誌で読むことが出来たものなのさ。
 
 さて、「野球狂の詩」だ。
 30数年振りに再読して発見した驚きの事実2連発。

 072.gif岩田鉄五郎54歳。タメ?!
  東京メッツ所属の、球界現役最古参投手、岩田鉄五郎は、何といまのボクと同じ54歳という設定だったんよ!!
  連載当時、ボクは高1とか高2(15歳~16歳)で、その頃のボクの目には、岩田鉄五郎は70代の老人に見えたのだ。
  それにしても、約40年前の50代といまの50代のイメージには、相当のギャップがあるよな~。

ついでに、連載当時の作者の水島新司の年齢を調べてみたところ、1939年(昭和14年)生まれなので、「野球狂の詩」連載開始の1972年には、33歳ということになる。
  当時の30代の目には、50代のおっさんは、70代のじじいと大差なかったってことなんだろう。
  ガッデーーーム!!
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 072.gif岩田鉄五郎、キャッチャーもやるのー?!
  ハエの止まるような糞ボールを「にょほほほ」と投げて打者を打ち取る岩田投法。
  そして、ドリームボールの水原勇気がリリーフ登板する際には、岩田のとっつぁんは、キャッチャーに変身するんかい!!
  そうか、マルチ・プレイヤーだったのか。
  すげーよ、岩田鉄五郎54歳。
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by misaochan3x6 | 2012-07-19 05:51 | 入院日記 | Comments(0)

入院日記(24日め)/退院とわたくし

【2012年7月18日(水)】

 6月24日(月)に入院以来、24日めを経ての退院となる。
 梅雨明けとともにね。

 結果的に、手術をしてよかったと思います。
 何よりも右股関節の〝痛み〟から開放されたので。

 いまある痛みといえば、5ヶ月に及ぶ松葉杖生活ですっかり衰えてしまった右脚の筋肉を回復すべく行ってきたストレッチによる右の脚の付け根の筋の痛みかな。
 それに、右の大臀筋(お尻の筋肉)も育てなければね。

 ま、5ヶ月かけてじっくり衰えさせた筋肉が、そうそうすぐには回復するわけはないので、1年くらいかけて戻していくよりほかはないわけなのだ。

 あとは、ずっと仕上げたいな~と思っていた以下の曲のカバーも、病室に持ち込んだギターの手慰みで、我流とはいえ何とか形になったので、それもよかったかな。

 072.gifLove In Vein/The Rolling Stones ver.
 072.gifTime waits for no one/The Rolling Stones
 072.gif Little Wing/Jimi Hendrix
 072.gifWish you were here/Pink Floyd(Roger Waters)

 さて、午前中、最後の理学療法リハビリテーションを受ける。
 いつものストレッチ~階段の昇降~杖なしの屋上歩行。そして、同じく杖なしで、病棟玄関前のスロープの昇降歩行訓練で締め。

a0141884_22555628.jpg その後、費用の清算を済ませて、息子と息子の彼女が車で迎えに来てくれるのをひたすら待ち続ける。
 そして、ふたりは、約束の午後1時よりもちょい前に病室に来てくれたのだった。

 さあ、帰るぜ、みーちゃんの待っている家へ!!

 途中、自宅近くのファミリーレストランに寄って3人でお昼。
 ボクは、ウーロンハイとおつまみにサラダとナンコツ揚げをオーダーする。

 いや~、久し振りのアルコホールだー!!
 沁みるな~。じわわ~~ん。


 で、これまた久し振りに自宅に帰る。
 玄関の扉を開けて感じたのは、久し振りに嗅いだ自宅の部屋の匂いが、〝やけに老人臭い匂い〟がしたってことなんだ。
 ま、子供がいなくなって、夫婦の合計年齢108歳の家の部屋の匂いって、きっとこういうことなのかも知れないな。
 それにしても、あらためて見てみると、古い家だよな~。

 というわけで、みーちゃんにも久し振りに邂逅す。
 犬とは違って、尻尾を振って駆けて来るでもなし。
 
 そこがいいんですよ、にゃんこは。
 でへへ。

PS.
 で、1ヶ月間伸ばし放題にしていた髭は、その日の夜、サッパリと剃り落としてしまったのさ。
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by misaochan3x6 | 2012-07-18 22:53 | 入院日記 | Comments(2)

入院日記(23日め)/リハビリテーションとわたくし

【2012年7月17日(火)】

 列島が猛暑に襲われている。
 路上生活者でなくて、本当によかった。
 そして、群馬県館林市民でなくてつくづくよかったって思うんよ。
 さらにいえば、名古屋市民でなくて、本当に本当によかったわ。

 さて、13:00から理学療法リハビリテーション。
 ストレッチを受けたあと、戸外での歩行訓練。

 前回の戸外での歩行訓練は、7月11日(水)なり。

 病棟1階の正面玄関から出て、杖なしでスロープをゆっくり降り、そしてゆっくり登った後、病棟のまわりをぐるっと歩いて再び正面玄関に戻って来るというメニュー。
 それにしても、なんという暑さ!!
 たったちょっとしか歩かないのに、汗が引かないのである。
 路上生活者でなくて、本当によかった。
 そして、群馬県館林市民でなくてつくづくよかったって思うんよ。
 さらにいえば、名古屋市民でなくて、本当に本当によかったわ。

 もうエエか。

 そんでもって、14:20からは、作業療法リハビリテーション。
 けふは、お座敷での立ち座りの訓練と、お風呂の入り方の訓練。
 作業療法リハビリテーションは、これをもって終了だ。
 理学療法リハビリテーションは、あしたの午前中をもって終了の予定である。

 どうやら梅雨が明けたようだ。

 夕食を終え、18:30からシャワー入浴す。
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by misaochan3x6 | 2012-07-18 22:48 | 入院日記 | Comments(0)

入院日記(22日め)/読書とわたくし・西村賢太②

【2012年7月16日(月)・祝】

a0141884_22454994.jpg 入院から4週めに突入。
 初日以来伸ばし続けた髭もここまで伸びたよ。

 おととい、右隣の個室に入院していたおばあさんが退院しかと思ったら、中一日で、けふ男性客が入室したのに気づく。
 ようござんすな、客が絶えなくて。

朝10:00~10:30、シャワー入浴。


 ナースステーションに置いてある新聞の一面には、「熱中症で449人搬送。水の事故で死亡4人」と出ていた。
 全国的に暑いんだな。
 本日、東京は30℃を超えているそうな。
 病室にいると、まったく外の様子がわからないのである。
 
 さて、

 072.gif廃疾かかえて/西村賢太/新潮文庫 

  昨日、読了。

 続けざま、

 072.gif随筆集 一私小説書きの弁/西村賢太/新潮文庫に突入し、読了。

 そにしても、いまどき「随筆集」って・・・。
 いかにも古臭いよね。
 ま、この男らしいとは思うのだが。

 小説から一転、師たる大正時代の私小説家 藤澤清造にまつわる様々な刊行物等に寄せた寄稿文を中心に、商業誌(新潮、群像、文學界)等にも書かれた文章をまとめた1冊。

 ひと癖もふた癖もあるその小説群とは一変して、実に淀みのない、癖のない、わかりやすい、オーソドックスな文体であることに、ちょっとびっくりしたのだった。

 その男の同じ筆先から、「これで満足か。膣臭(ちつくさ)女めが」(「膿汁の流れ」)、「だからあの糞猿は気に入らないと云うんだよ!」(「同左」)といった甘味な表現が出るのだから、<私小説家>っていう肩書きは、何でもありにしてしまえるので、まったくもって免罪符だよな、え、とっつぁんよ(笑)。 

 それにしても、相変わらず読めない漢字が多いよな~。
 このおやじ、なまなかな〝中卒〟ではないな。大卒のオレも手を焼くよ。
 いやはや、文学者とは、まさに異界の徒なり。
 退院したら、早速、漢和辞典を開いて調べなくちゃな!!

 叺 莚 罵詈讒謗 狷介 下疳 弁えた 憶う  悼んで 哭して 

 そんでもって、まだ手に入れていないこの男の文庫本も、次々に入手しなければね。
  072.gifどうで死ぬ身の一踊り/講談社文庫(注文中)
  072.gif小銭を数える/文春文庫
  072.gif二度はゆけぬ町の地図/角川文庫
  072.gif人もいない春/角川文庫

 さて、昨日に引き続き、午後14:00から、以下のメニューを自主リハビリテーション20分間こなす。
 ・ストレッチ
 ・1本杖による歩行訓練200M
 ・杖なしによる歩行訓練200M

a0141884_236199.jpg PS.
 夕食におでん。

 そういえば、入院した日(6/25・月)の夕食もおでんだったっけ。
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by misaochan3x6 | 2012-07-18 22:45 | 入院日記 | Comments(0)

入院日記(21日め)/音楽とわたくし

【2012年7月15日(日)】

 きのうに引き続き、けふもものすごーくいい天気なり。
 わが入院生活も21連休めに突入だ。

 本日はリハビリテーションはお休み。

 さて、病室でのギター練習も、いよいよ〝詰め〟の段階に入り、けふはとうとう懸案のこの曲のコード譜を整理し、我流ながらどうにか弾き語れるようになったんだわさ。
 じわわ~ん。

 072.gifLittle Wing/Jimi Hendrix



 入院生活のような状況(ほかに行くところもなし、ほかに時間を潰すような手段もない、閉じ込められた状態)でなければ、とうてい達成出来なかっただろうと考えると、今回の入院生活もまんざらではないなと思えるのである。

 午後14:00から、以下のメニューを自主リハビリテーション20分間こなす。
  ・ストレッチ
  ・1本杖による歩行訓練200M
  ・杖なしによる歩行訓練200M
  ・階段の昇降(2階分)

 夕方、072.gifわが<チーム金子>のバンマス金子さんと、先日もお見舞いに来ていただいたゆみさんのお見舞いを受ける。
 お二人とも、お見舞いありがとうございました。
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by misaochan3x6 | 2012-07-18 22:40 | 入院日記 | Comments(0)

入院日記(20日め)/読書とわたくし・西村賢太①

【2012年7月14日(土)】

 梅雨はもう終わったのかな?
 ものすごーくいい天気なり。
 しかし、九州方面は豪雨で大変な様子だ。

 世間では、この土曜日を含めて3連休だが、この身はすでにけふで20連休めに突入だ。

 午前中シャワーに入り、午後一で理学療法のリハビリテーション。

 さて、先日、職場の部下に差し入れてもらった「苦役列車」西村賢太/新潮文庫を一気読みし、この1冊でこの作家にハマってしまう。
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 本に挟み込まれていた広告には、すでにこの著者の文庫は、新潮文庫であと3冊刊行されているのがわかったほか、この作家が〝没後弟子〟として心酔する大正期の私小説家である藤澤清造の文庫も、同じく新潮文庫で<西村賢太編>として2冊刊行されているのがわかったので、さっそく病室を訪れた奥さんに頼んで、彼女の携帯からネットで、上記の5冊を注文してもらい、一気に大人買い。

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 「私小説の逆襲」か。いいね!!

 で、さっそく届けられたそれらの本の中から、ゆうべから今朝にかけて、早くも「暗渠の宿」を読了。
 いや、無類に面白い。

 その風貌から、中上健次を彷彿とさせ、若い頃、羽田周辺で肉体労働に従事していたという出自には、お互い共通したものがあるが、中上が現代詩的というか現代思想的というか60年代的ジャズをバックーボーンに持っていた本質的に<現代的>な資質とは違って、西村賢太という男は、大正期のひとりの私小説家に偏執的に心酔し、作家としての起点をそこに持っているという点で特異である。

 もっと単純化していえば、中上健次の資質は、いやでも戦後的的であるのに比して、西村賢太の資質は、後天的に獲得した戦前的な感性に淫しているというべきか。
 <誰にもあるわけではない>中上健次のいう物語(書くという行為によって虚構とならざるを得ない世界)と、<誰の中にもある>西村賢太=北町貫太という私小説的地平。
 そして、何より特異であるのは、その文(ふみ)使いなのだ。

 「100パー、わたしのお金」(廃疾かかえて)、「清楚系というよりはどうにもサイケデリックな顔立ちで」(けがれなき酒のへど)といった、いかにも現代っ子風な表現(1967年生まれの45歳)と、以下のような聞きなれない単語や表現とのギャップは、これまで経験したことのない読書体験なのだ。

 072.gif「慊い(あきたりない)」、「曩時(のうじ)」、「購め(もとめ)」、「黽勉(びんべん)たる」、「聊頼(りょうらい)を決め込む」、「突兀(こつとつ)とした山々」、「牢籠(ろうろう)に追い込まれた」、「そんな誘掖(ゆうえき)もしてくれず」、「僅僅(きんきん)」、「排泄器官の腥気(せいき)」などのルビがなければ読めない感じや、「瘡瘢」、「慚羞」、「心の箍」、「篦棒」、「讒謗」、「佞媚の言」、などの、そもそも辞書をひかなければすぐにはその意味がわからない漢字。

 072.gif「結句」、「云い条」などの聞きなれな接続詞、「ようよう」、「いったいに」、「せんに」、「最前から」、「かような」、「すぐと」、「とあれ」、「いっかな」、「莞爾と笑って」といった古い言い回し。

 072.gif果ては、「はや」、「どうで」といった出自不明の副詞。

 072.gif「後架」、「閑所」、「掃苔」、「二六時中」、「年百年中」、「金輪奈落」、「一伍一什(いちごいちじゅう)」「いわゆる風俗営業の女性たちの、黄白の代償としての」、「その種の黄白を介在させることや」、「当然黄白なぞを一切介することなく」、「果敢なくなってしまった」、「厭ったらしそうにほき出した」、「精をつからす」、「スタバタ去っていった」、「おまえもとうどう、薄暗いおさとを明かし始めてきたなあ」、「これでおまえも、とうどう墓前生活を余儀なくされる羽目になったなあ」。「気ぶっせい」などの聞きなれない単語や表現。

 いったい、この男は、どこの言語惑星から飛来した人種なのか?
 自ら卑下して自称する〝中卒〟の識字とも思えない。
 それとも、「ただでさえインフェリオリティーコンプレックスの狂人レベルな私」(「暗渠の宿」)の強烈な裏返しによる、高学歴者への逆襲なのか。

 それにしても、「どうで」とは、そもそもどういう意味なのであろうか?(「どうで死ぬ身の一踊り」)
 古い日本語にあるのか?それとも、大川のむこうにあった古い東京方言(江戸弁のなごり)なのか?

 また、「黒カーテンをはぐって」(苦役列車)、「布団をはぐると」(けがれなき酒のへど)などとは、さて面妖な。
 このいい方、ボクの田舎である島根プリーフェクチャーではこういう表現をするのだが、本人いうところの〝生粋の江戸っ子〟なら、「めくって」といいそうなものを、これは一体いかがしたことか。
 「腰をこごめた」、「上半身をこごめた」もまた、〝生粋の江戸っ子〟しからぬ何やら田舎めくものの謂(い)い。

 そして、最大のギャップ感は、会話に出て来る暴力的な主人公の自分の呼称が、「オレ」ではなく、一様にかわいらしく「ボク」であり、会話中に記される相手(主として女の場合)の呼称は、必ず「おまえ」であり「貴様」なのだ。
 また、「おそば」、「おつゆ」、「お菜」など、時々、この男のものの謂(い)いには、妙にかわいらしいところがある。

 しかし、女を罵倒する時のこの男の表現には、なかなかのものがあるわいな。
 「えばるな、馬鹿」(「廃疾かかえて」)
 「黙れと言ってるんだ、このオリモノめが!」(「廃疾かかえて」)
 「融通のきかない奴め。大学出たって何んの役にも立ちやしねえ」(「暗渠の宿」)
 「お為ごかしを言うな、薄のろめ」(「暗渠の宿」)
 「馬鹿のくせして気取ったことぬかすな!」(「暗渠の宿」)
 「糞腸女めが」(「膿汁の流れ」)
 「これで満足か。膣臭(ちつくさ)女めが」(「膿汁の流れ」)

 ついでに、こんな表現にも痺れるんよね。
 「次にふいと最前の糞袋の口臭が、腐った肉シューマイみたいだったのを思いだし、ブルッとひとつ、身震いをはらう」(「苦役列車」)
 「ちょうどその男はサラダの容器に分厚い唇をつけ、底に溜まっていた白い汁みたいなものをチュッと啜り込んでいるところだったので、これに彼はゲッと吐きたいような不快を感じ、」(「苦役列車」)
 「出たぜ。田舎者は本当に、ムヤミと世田谷に住みたがるよな。まったく、てめえらカッペは東京に出りゃ杉並か世田谷に住もうとする習性があるようだが、それは一体なぜだい?(中略)何が、下北、だよ。だからぼくら生粋の江戸っ子は、あの辺を白眼視して絶対に住もうとは思わないんだけどね」(「苦役列車」)
 「数種の詰め合わせになってる菓子を順々に口にしながら、女はコーヒーをこくりと飲む」(「暗渠の宿」)
 「おまけに、彼女のヴァギナからはまるで夏場に貝類が腐ったような、許容範囲をはるかに超えるとてつもない匂いが立ち上り、(中略)もはや口唇での再接触を断念した程であった」(「けがれなき酒のへど」)
 「朝の公共の場特有の、微かに大便の異臭が漂う蒸し暑い車内で、」(「苦役列車」)
 「股間からうっすら大便の異臭が漂ってくるのにはさすがの彼も辟易し、折角の舌技を使う練習も、そのコツを掴む前に余りの気色悪さに気押されて、断念せざるを得ない不甲斐ない態たらくであった。」(「苦役列車」)

 いや、いや、夢中になってこの男の特異な文(ふみ)使いを転記しながら気づいたのは、新潮文庫の本文がいまだに活版印刷なのだとするれば(たぶん間違いないよ)、活字職人たちは、この男の手蹟をなぞるのに気が狂いそうになりながら、「曩時」、「篦棒」、「讒謗」、「瘡瘢」、「慚羞」、「心の箍」などを植字しつつ、「慊い(あきたりない)」、「「購め(もとめ)」、「黽勉(びんべん)たる」、「聊頼(りょうらい)を決め込む」、「突兀(こつとつ)とした山々」、「牢籠(ろうろう)に追い込まれた」、「そんな誘掖(ゆうえき)もしてくれず」、「僅僅(きんきん)」などのルビも植え込み1冊の本を仕上げるというまさに「苦役」を強いられることになり、あらゆるデータがデジタル化されたこの時代になっても、活版印刷の現場は、いまだに「太陽のない街」から一歩も進んでいないのではないかという驚愕すべき現実だったのである。 
 

 さて、こので20連休中にボクが読んだ自分の本のリストは、以下のとおりである。

 
 072.gif豹マン(上)/南波健次/マンガショップ(初読)
 072.gif豹マン(下)/桑田次郎/マンガショップ(初読)
 072.gifシルバー77/久松文雄/マンガショップ(初読)
 072.gif花筐(はなかたみ)/壇一雄/旺文社文庫(初読)
 072.gif今夜、すべてのバーで/中島らも/講談社文庫(再読)
 072.gif苦役列車/西村賢太/新潮文庫(初読)
 072.gif暗渠の宿/西村賢太/新潮文庫(初読)
 

 そんでもって、病棟の憩いルームの置き本で読んだ本のリストは、以下のとおりである。

 072.gifさようなら芸能界/永六輔/朝日文庫
 072.gifゴルゴ13/さいとう・たかを(3冊)
 072.gif鬼平犯科帖/さいとう・たかを(2冊)
 072.gif剣客商売/さいとう・たかを(1冊)
 072.gif野球狂の詩/水島新司(1冊)
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by misaochan3x6 | 2012-07-18 22:31 | 入院日記 | Comments(0)

入院日記(19日め)/音楽とわたくし

【2012年7月13日(金)】

 きのう、6月末締めの請求書(6/25・月~6/30・土)をもらったんよ。

 その中で一番気になるのは、やっぱり手術代・麻酔代だわな。
 額面は、概算でざっと以下の金額なり。
  072.gif手術代・・・40万円
  072.gif麻酔代・・・2万円

 これに、個室代、リハビリ代、食事代等が加算されるのだが、入院前に、職場で加入している保険組合から、全国健康保険協会に「限度額認定証」という認定書事前に申請し、この認定証の発行を受けていたおかげで、42万円の手術代・麻酔代の内の約8割が、健康保険から支払われることになり、結局、ボクが病院に直接自腹で払う手術代・麻酔代は、9万円に軽減されたのである。
 ありがたや、あるがたや。

 この制度は、健康保険に入っている70歳未満の善男善女に適用される制度で、平成19年(2007年)4月1日から運用されているとのこと。
 これから手術を予定されている方には、ぜひお薦めの制度なりよ。

 さて、けふもいつものように、午前中(11:00~11:40)は、作業療法リハビリテーション。
 そして、午後は、理学療法リハビリテーション。
 筋力も徐々についてきた感じ。

 ついでに、リハビリテーション・ルームのある外来棟の7階からの風景をアーカイヴ。

 部屋に戻ってギター練習。
 この入院中に、奥さんに自宅から150曲くらいのコード譜を持って来てもらい整理中なり。
 現在、その中から、自信を持って弾き語りの出来る曲をセレクトし、60曲ばかりを厳選したんだわさ。
 けふは、その60曲の中からようやく何とかこの曲を仕上げ、自分のものに出来たような気がするのだ。

 072.gifWish you were here/Pink Floyd(Roger Waters)



 ついでに〝珍品〟を付録につけとこう。

 072.gifWish you were here/Velvet Revolver



 この60曲のほかに、あと5曲ばかりを自家薬籠中のものに出来るかどうか検討中なのよ。
 後日、これらの曲をリストを作成するつもり。
 
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by misaochan3x6 | 2012-07-18 22:17 | 入院日記 | Comments(0)

入院日記(18日め)/退院日決定とわたくし

【2012年7月12日(木)】

 きのう、「退院日について、そろそろ主治医と相談しなければね」と書いた後にドクターの訪問を受けて相談した結果、退院を手術から3週間めの7/17(火)の翌日の7/18(水)に決めたのさ。
 なぜなら、奥さんは仕事で来られないので、この日仕事が休みの息子に、家の車で迎えに来てもらうことにしたんだわさ。
 
 さて、けふは、まずは、9:40から、作業療法士によるリハビリテーション。

 背中にリュックを背負って1本杖で、別棟6階のリハビリ・ルームに向かう。
 椅子に座って出来るストレッチを教わり、大いに参考になる。
 これだと、職場の休み時間に出来るからね。

 その中で、手術した右足の膝をぐぐーーっと曲げて、踵を腿の付け根まで持って来るストレッチにチャレンジして、だんだん右足の腿の付け根の筋肉が柔らかくほぐれて来たので、収穫だったんだ。
 日に日に知恵が付いて来て、光が差して来るのがわかるんよ。

 こなると、筋肉痛で一時は億劫だったリハビリテーションにも弾みがつくってもんだわさ。
 いいぞ、いいぞ。

 このリハビリから帰って、シャワーを浴びたのだった。
 午前中は、ざっとこんな具合。

 
 12時40頃から、職場の手下の女子職員と携帯で仕事の打ち合わせ。
 また、別の案件で、今度は職場の手下の男性職員と携帯で仕事の打ち合わせ中に電波状態が悪くなって、電話が切れてしまったところに、072.gif13:30頃、「東京みかん」代表の宮さんのお見舞いを受ける。

 んが、実は、13:40からは、理学療法士によるリハビリテーションなのだ。
 話もそこそこに、別棟6階のリハビリ・ルームに向かわざるを得なくなってしまった。
 宮さんには悪いことしちゃったな。メンゴです。

a0141884_2272984.jpg さて、午後のリハビリメニューをこなして部屋に戻り、再び職場と連絡をした後、おもむろにギターと手に取り、この曲のコード譜の整理をしていたところ、072.gif音楽仲間のフォークグループ<あじさい>の小堀さんと、ピアノのゆみさんのお見舞いを受ける。






 072.gifIt Makes No Differennce/The Band



 奇しくもこの曲こそ、いつかはフォークグループ<あじさい>の皆さんのバッキングで歌いたいと思っていた曲であり、偶然にもそこに、<あじさい>の小堀さんが現れたというハプニングだったのである。

 一方、ピアノのゆみさんとは、いつかゆみさんのピアノでこの曲を歌うことを約束していたのだった。

 072.gifA Song For You/Leon Russell



 ゆみさんからは、お見舞の品として、グラス入りの枯れない生花をいただいた。
 感謝です。

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 さて、そうこうしているうちに、072.gif今度は、息子と彼の彼女がお見舞いに。
 下田への旅行帰の帰りにお土産を持って来てくれたのである。
 残念ながら、先客とバッティングしてしまい、話もそこそこに帰ってもらわざるを得なかったのには、こちらもまたまたメンゴです。

 そんな中、今度は病院の事務の女性の訪問を受け、6月分の請求書を渡されたのさ。

 というわけで、お昼過ぎから、小堀さん、ゆみさんが帰る16:30過ぎまでは、来客ラッシュが続いて忙しかったんだわさ。

 本日お越しくださった皆さん、きょうは、どうもありがとうございました。
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by misaochan3x6 | 2012-07-18 21:56 | 入院日記 | Comments(0)